痒い・ホカホカ
先週、横浜の現場で消防検査があるので そこへ行く途中の出来事。
その日は、至るところで 緊急停止信号やら 人身事故やらのせいで、電車のダイヤが大幅に狂っていた。
町田で やっと来たJR横浜線の電車に乗り込んだ。
いつもなら 空いていて座れるのだが 今回は狂ったダイヤのせいで 車中は混雑していた。
仕方なく、立ったまま建築雑誌を読むことにした。
目の前に3~4才の男の子とセレブぽい身なりのお母さんと思しき女性が座っている。
男の子は耳にイヤホンをして なにやらお母さんのひざの上に置かれたDVDブレーヤーの画像を見ているようだ。
どうやら、二人の会話から「あんぱんまん」を見ているらしい。
この子の体がリズムをとりはじめた。
靴を履いている足が私のひざに当たった。
私はこの子に注意をする意味で、めがねの奥から 彼をちょっと睨みつけた。
本当はぜんぜん気にもしていないし、当然怒っているわけでもない。
強いていうなら、ご愛嬌でにらんでいるだけだ。
それに気づいたお母さんがその子をたしなめている。
私はその光景をほほえましく眺めていた。
ちょっと怒られたことが気に入らなかったのか、他のDVDを見ると言い出し、ダダをこね始めた。
最初はやさしく諭すように注意していたセレブのお母さんも、だんだんと口調がきつくなってきた。
その態度にますます男の子はわがままの度合いがひどくなっていった。
耳にさしたイヤホンを両手で押さえながら、叫び始めた。
「かゆい!」 「かゆい!」
「どこが痒いの?」 とお母さん。
「ちんちんがかゆい!」と相変わらずイヤホンを手で抑えたまま叫んでいる。
そのちんちんの言葉の方に、車中にいる人々が注目した。
その子はますますエスカレートしていく。
挙句の果てに
「ママ! ちんちんがかゆい、かいてー!」
なんというわがまま、いったいどんな育て方をしているんだこの母親は。
多分、電車に居合わせた人々はそう思ったに違いない。
母親は当然一喝するかと思いきや 次の瞬間 我が子の股間に手をあてがい 掻き始めたではないか。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「ダメダ コリャ」
吉本新喜劇なら 電車の中の全員でこけていたに違いない。
横浜方面はどうも鬼門らしい。
10日ほど前もトンでもないことに遭遇した、
横浜の消防署に書類を提出する際、電車の中から変なにおいがし始めた。
そのときは夢中になって音楽を聴きながら建築雑誌を読んでいたので、大方、赤ん坊がお漏らしでもしたのだろうと 思っていた。
だんだんとその臭いがきつくなってきたので、さすがに臭いの元を探ろうとあたりを見回した。
電車の中には誰も居ない。
いや正確に言うと、私ともう一人 電車の連結部分の近くにしゃがんでいる、上下ねずみ色のスエットを着ている私ぐらいの年齢の男がいた。
そしてその男の傍らには ついさっきこの世に生れ落ちたと思われる物体が、ホカホカと湯気をたてて、床にぽつんと寂しそうにたたずんでいた。
私はそのものを見ながら このオッサン 夕べは何を食べたんだろうとぼんやりと考え始めた。
そんな場合か。
乗客は異変に気づき とっくの昔に この車両から逃げ出していたのだった。
たまたま次の停車駅が降りる予定の駅だったので、いまさらジタバタしても仕方がない。
鼻と口を手で押さえながら駅に着くのを今か今かと待っていた。
扉が開いた瞬間 猛ダッシュで電車を飛び出した。
ホームに降りて深呼吸をしながら改札に向かって歩いていると、新聞紙とゴミ袋とちりとりを手に持った、若い駅員さんとすれ違った。
電車の中で繰り広げられる惨劇を想像した。
「ご苦労様」と心の中でつぶやいた。
磯者
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